業績

植物学者・牧野富太郎は、“仕事師”と表現するのが適切なくらい植物の研究と教育普及活動に没頭し、植物一筋な94年の人生を送りました。
そんな牧野博士の仕事とは何だったのか。ここでは、主な6つの業績について紹介します。

記載ー植物を学術的に記録する

トサノミツバツツジ

ビロードムラサキ

生物の種類ごとに、その特徴を学術的に記述し、記録することを「記載」と言います。牧野博士の分類学の主な仕事は、植物の記載学と言えます。まだ日本の植物が解明されていなかった時代、牧野博士は自らの足で全国を歩いて調査し、未知な多くの植物に学名を付け、記載しました。その数1500以上。牧野博士の時代には、中国や韓国など周辺の国の植物と日本の植物を詳しく比較することが困難だったのですが、牧野博士が学名をつけた植物は、その後、後進の研究者によって比較研究が進み、周辺諸国における植物分類研究の進展にも貢献しています。
【左写真】牧野博士が命名したトサノミツバツツジ 【右写真】ビロードムラサキ

「牧野式」植物図

牧野博士が描いたコオロギランの図

中央の拡大図の周辺に部分図や成長の各段階における4個体ものコオロギランが描かれている

牧野博士が描く植物図には、緻密性(ちみつせい)と自らの記載学における信念を見ることができます。それでは、その「牧野式」植物図とはどのようなものなのでしょうか。牧野博士の図は、その植物の種類の全体像を描ききろうとしているところが特徴です。人も一人一人顔つきが違うように、同じ植物でも個体によって顔つきが違います。そのような形の差も含めて、種の平均的な全体像を描こうとしているというのが「牧野式」なのです。水島南平、川崎哲也、太田洋愛など、精密な牧野博士の図に影響された研究者や画家も数多くいます。
【左図】牧野博士が描いたコオロギランの図。
【右図】中央の拡大図の周辺に部分図や成長の各段階における4個体ものホテイランが描かれている。

標本収集40万枚

牧野博士が東京・上野公園で採集した桜(ソメイヨシノ)の標本

牧野博士は交通機関が発達していなかった時代に、日本全国にわたる超人的で活発な採集調査を行い、生涯に40万枚とも言われる膨大な数の標本資料を収集しました。貧困のため売却されたり、虫害のため廃棄された標本もあります。最後に東京都練馬区の標品館に残された標本は約40万枚と言われていますが、その膨大さゆえに正確に数えた人はいません。それらの標本を、外国の標本館と交換し、あまり国内になかった海外の標本を、比較資料として収集することができ、後世の科学者の研究活動に重要な役割を果たしました。
【写真】大正4年4月に牧野博士が東京・上野公園で採集した桜(ソメイヨシノ)の標本。

教育普及にかけた情熱

昭和12年3月28日東京植物同好会の採集会(伊豆網代)で解説をする牧野博士(右から3人目)

牧野博士が成し遂げた二つの大きな仕事。その一つが、全国規模の植物知識の教育普及活動です。さまざまな地方で、観察会、同好会、講演会をこなし、時には園芸学校や高等学校でも講義を行い、全国の植物趣味家、研究家、愛好家などから届く問い合わせに細かく対応して、植物の普及に尽力しました。この仕事が、牧野博士を最も特徴付けるものと言えます。その後、各地の研究家が地元に密着した標本採集や観察に励み、その結果は後の日本の植物研究に、重要な役割を果たしていきました。
【写真】昭和12年3月28日東京植物同好会の採集会(伊豆網代)で解説をする牧野博士(右から3人目)

現代の図鑑の先がけ

『牧野日本植物図鑑』(北隆館 刊)の初版本

牧野博士の植物の教育普及活動の集大成の一つが、『牧野日本植物図鑑』の出版と言えるでしょう。この一連の図鑑が、日本における植物の一般教育普及に果たした役割は、計り知れないものがあります。牧野博士の時代、植物の線画を掲載した数多くの図鑑が発刊されました。その後、図鑑も時代の変遷とともに、図から写真を使ったものに姿を変えていきます。現在では、精密な写真を中心とした良質の図鑑が一般向けに出版され、趣味家、愛好家の間などで活用されています。牧野図鑑は現在の図鑑の先がけだったと言えます。
【写真】『牧野日本植物図鑑』(北隆館 刊)の初版本。その後増刷を重ねられ現在でも植物愛好家必携の書として愛用されている。

学術雑誌の創刊

牧野博士が創設した『植物研究雑誌』の第1巻

研究が進めば、その成果を発表する場が必要です。牧野博士は、日本を代表する2種類の学術雑誌の創刊に係わりました。『植物学雑誌』と『植物研究雑誌』です。牧野博士は、これらの雑誌に日本産植物の記載論文を数多く発表しました。現在、植物学雑誌は『Journal of Plant Research』として、日本植物学会の国際誌として世界にも知られています。植物研究雑誌は、今でも刊行が続けられており、基礎的な分類学、記載学の論文の発表の場となっています。
【写真】牧野博士が創設した『植物研究雑誌』の第1巻。植物研究雑誌は、現在でも植物分類学を中心とした学術雑誌として刊行されている。